現在行われている定期の予防接種に異論のある医師もおりますが、私はいず
れのワクチンも個人の健康を守るものとして意義は深いものと思っています。子
どもの健康のためには集団生活には入るまでに予防接種を済ませておくことは親
の義務であると理解していただきたいと思います。
予防接種法で定められている予防接種(BCG,ポリオ、三種混合、麻しん
、風しん、日本脳炎など)を受けるだけでも、小さい子にとっては容易なことで
はありません。特に予防接種の目的から考えると、最も健康で、最も免疫効果が
あがる適切な時期に接種することが望まれます。従って予防接種のスケジュール
は当然個々の子どもに適したものが組まれなければなりません。平成6年10月
予防接種法の改正で年中いつでも予防接種が受けられるようになり、余裕のある
スケジュールの組み方ができるようになりました。
大まかな予防接種のスケジュールは
生後3ヶ月から1歳までにBCG、ポリオ、三種混合(T期基礎免疫)をワク
チンを
1歳から2歳かけて麻しん、風しん、三種混合(T期追加免疫)ワクチンを
2歳から3歳にかけて水痘、おたふくかぜワクチンを
3歳から日本脳炎ワクチンを
一応のスケジュ−ルを示しましたが、個々については前後してもよく、例えば日本脳炎ワクチンを3歳以前に接種することも出来ます。
集団生活に入るまでに予防接種が済むよう個々に計画すべきでしょう。
それでは予防接種について簡単に説明いたします。
次の3種類があります。
生きた病原体(病気を起こす細菌やウイルス)の毒性を弱め、身体に入って も病気にならず、その病気にかかったのに近い免疫をつけるようとするものです 。接種後から体内で病原体の増殖が始まりそれぞれの持っている性質に応じて、 発熱や発疹の軽い症状が出ることがあります。生ワクチンにはポリオ、麻しん、 風しん、おたふくかぜ、水痘、BCGがあります。
病原体を殺し、感染性をなくし免疫を作るのに必要な成分を取り出し毒性を
なくして作ったものです。この場合、病原体は体内で増殖しないので、何回か接
種して、身体に記憶させて免疫を作ります。一定に間隔で数回接種して初回免疫
をつけ、約1年後に追加接種をして基礎免疫ができあがります。
そのままですと少しずつ免疫抗体が減ってきますので、長期に免疫を保つに
は一定の間隔で追加接種が必要です。不活化ワクチンには、百日咳、日本脳炎、
インフルエンザワクチンがあります。
細菌が産生する毒素を取り出し無毒化したものです。これにはジフテリア、
破傷風ワクチンが相当します。
結核に対する免疫があるかどうかツベルクリン反応で調べ、陰性ならBCG
を接種します。生後3ヶ月以後の乳幼児に1回、その後小学1年生、中学1年生
に機会があります。
結核は最近ではその発生が減っていますが子どもの感染はまだ見られ、しかも
乳児の場合、結核から起こる髄膜炎は大変恐ろしいものです。BCGを接種して
おれば自然感染は起こりにくいとされていますので乳児期に必ず受けておくこと
。受けておくことで結核性髄膜炎が80%、肺結核が50%も予防できます。
集団生活(保育所、幼稚園)に入る場合、特に必要です。
春(5月)と秋(11月)に保健所などで行われます。生後3ヶ月から経口
投与で2回受ければよいのですが、できるだけ早く済ませておいて下さい。確実
な効果を得るためには風邪気味でない健康なときにうけるようにして下さい。
生後3ヶ月以降に3回(T期基礎免疫)T期終了後6ヶ月以降に1回(T期
追加免疫)、小学6年生頃(U期ジフテリア、破傷風、満11歳〜13歳未満)
に1回行います。副反応は発熱(3〜4%、24時間以内)、注射部の腫れ、痛
み、しこりがみられます。発熱は2日以内に、腫れは1週以内、しこりは1ヶ月
以内に治まります。
百日咳は6ヶ月以内にかかると重い経過を取ることがあり、また破傷風はけ
がの後にまれに起こり死に至ることもある怖い病気です。
三種混合は接種回数が多く、比較的痛い注射ですので大きくなると嫌がり段
々やり辛くなりますので記憶が長く残らない時期(乳児期)に済ませたいもので
す。
1歳になると公費負担で受けられます。副反応は発熱と発疹(ともに10人
に1人程度)がみられますがどちらも軽く2日ほどで治まりますので心配はいり
ません。
麻しんは1週間位の発熱と発疹をともあう病気ですが乳幼児にとっては油断
できないもので合併症として中耳炎が7〜9%に肺炎が1〜6%にみられ、脳炎
は2000〜3000に1人の割合で発生がみられます。現在でも年間数十名の
子どもが麻しんで死亡します。
予防接種ではこれらの合併症はほとんどみられません。是非予防接種を受け
ておきましょう。
1歳になると公費負担で受けられます。副反応はほとんどなく安全です。
風しんは三日ばしかともいわれ3日間の発熱と発疹のある病気ですが年長児
になってかかると症状も強く3日で治らないこともあります。合併症としては、
血小板減少性紫斑病が3000人に1人、脳炎が6000人に1人の割合でみら
れます。
風しんワクチンは集団生活に入る前に済ませておくべきで、麻しんワクチン
に続いて受けておくべきでしょう。
生後6ヶ月から公費で受けられます。一般には3歳以降で、初年度に3〜4週間間隔で2回、
おおむね1年を経た翌年1回(以上基礎免疫)、その後満9歳〜13歳未満に1
回、満14歳〜16歳未満に1回(追加免疫)を行います。
日本脳炎はブタの中で増えた日本脳炎ウイルスが蚊によって媒介され発症し
ます。高熱、頭痛、意識障害、けいれんなどの症状を示す急性脳炎になります。
脳炎に罹った時の死亡率は約15%ですが、神経の後遺症を残す人が約50%あ
ります。西日本では毎年日本脳炎ウイルスの汚染地区となります。是非予防接種
を受けておきましょう。
1歳になると受けられます。任意接種のワクチンで自費で行います。副反応
は2〜3週後に時々耳下部の腫脹がみられます。数千人〜1万にに1人の割合で
無菌性髄膜炎がみられます。
おたふくかぜは、耳下腺、顎下腺が腫脹する病気ですが学校伝染病の中では
みずぼうそうと並んで一番欠席の多い病気です。50人に1人の割合で無菌性髄
膜炎、400〜1500人に1人の割合で難聴がみられます。難聴を防ぐ目的で集団生活に入るまでに受け
ておくべきでしょう。
1歳になると受けられます。任意接種で自費で行います。副反応はほとんど ありませんが、免疫獲得率が90%と悪く接種した人の10人に1人程度が軽く 罹ることがあります。また感染後(患者に接触後)48時間以内なら緊急接種に より発病阻止する効果も期待できます。
水痘はほとんどすべての子どもが罹る極めて伝染力の強い病気です。小学校 にはいるまでに約80%の子どもがかかります。成人の水痘は肺炎を合併すると 重い経過をたどります。集団生活前に受けておくべきでしょう。
生後6ヶ月以上どの年齢でも受けることができます。任意接種で自費で行います。毎年10〜1
2月頃に1から4週の間隔で2回接種します。最近13歳以上では年1回でよいとされています。それ以下では年齢により接種量が異なり年2回必要とされています。
発病阻止率は70%程度とされて います。重症化を防ぐとされています。5歳以下ではインフルエンザにかかると重症になる例もあり、
任意接種でA型肝炎ワクチン、B型肝炎ワクチン、狂犬病ワクチン、コレラ ワクチンがあります。
予防接種は健康な人が元気なときに接種を受け、その病原体の感染を予防す るものですから身体の調子の良いときに受けるのが原則です。
受ける予定の予防接種についてパンフレットなどよく読んでその必要性や副
反応などについて理解を深めておきましょう。
前日は入浴をさせ身体や着衣などを清潔にしましょう。
当日は普段と変わったところがないことを確認します。身体に異常がある場
合は主治医に必ず相談しましょう。
予診票は保護者が責任を持って記入し、判らないことは接種を受ける前に質
問しましょう。
(食物などのアレルギーやけいれん発作があった場合、必ず記入しましょう
。)
母子手帳は必ず持っていきましょう。
接種部位は、もまずに出血が止まるまで軽くアルコール綿で抑えます。もまない方が接種後の痛みも少なく、局所の反応も少ないようです。
予防接種を受けた後30分間は接種場所で子どもの様子を観察するか、医師
とすぐに連絡とれるようにしておきましょう。急な副反応(アナフィラキシーシ
ョック)はこの間に起こることがあります。
接種後生ワクチンでは2〜3週間、不活化ワクチンでは24時間は副反応の
出現に注意しましょう。
接種当日は激しい運動は避けいつも通りの生活をしましょう。入浴は差し支
えありませんが、不機嫌な時は控えておきましょう。
次の予防接種までの接種間隔は受けた予防接種が生ワクチンの場合は4週間
以上、不活化ワクチンの場合は1週間の間をあけます。(注意:同じ種類の不活
化ワクチンの場合は、それそれ接種間隔が決められています。たとえば三種混合
では3〜8週間など)