96 F1 Japanese GP

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Fuji Television Japanese Grand Prix 1996

1996 F1 日本グランプリ




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 世界各地で様々なレースが行われていますが、文句無しに全ての自動車レースの最高峰と言えるのがフォーミュラ・ワン、つまり「F1」です。ル・マン24時間を代表とするスポーツカーレースが基本的にレーシングカーの性能を競うことを目標とし、最も優秀な製造者(メーカー、コンストラクター)に対して最高の栄誉が与えられるのに対し、F1の神髄は「世界で最も速いレーサー」であるドライバーズ・チャンピオンシップをかけた争いにあるのです。

 今年のシーズンはじめには、昨年のチャンピオンであるミハエル・シューマッハがベネトン・チームを離れて信頼性に乏しいフェラーリに移籍したことにより、昨年惜しいところでタイトルを逃したデーモン・ヒルが圧倒的な強さでドラーイバーズ・タイトルを獲得するのではないかと見られていました。

 ところが、そのヒルの心胆を寒からしめたのは誰あろうヒルのチームメイトでありF1一年生のジャック・ビルヌーブでした。1992年に日本でF3選手権を1シーズン戦った後、アメリカでフォーミュラ・アトランティック、インディーカー・シリーズに参戦し、昨年のインディカー・チャンピオンという肩書きで颯爽とF1にデビューしたビルヌーブでしたが、そのパフォーマンスは時としてヒルを上回り、前回の第15戦ポルトガルGPを終わってヒルの優勝6回に対し、4回の優勝を遂げています。ドライバーズ・ポイントもヒル87点、ビルヌーブ78点と僅差に迫っており、もし、今回の最終戦日本GPでビルヌーブが優勝し、ヒルが7位以下に終われば新人ビルヌーブの大逆転チャンピオンが決定するという「メークドラマ」の期待で、レースウィークが始まりました。

 土曜日の午後1時間にわたって行われた公式予選では、ビルヌーブがダントツの速さを見せて堂々とポールポジションを獲得しました。ビルヌーブ、シューマッハ、ハッキネン(マクラーレン・メルセデス)に次ぐ予選4位に甘んじていたヒルは、予選終了2分前に自らのピットを離れ、最後のタイムアタックへ。派手さはないもののほぼ完璧なスーパーラップを果たし、予選2位、なんとか最前列のスタート位置を確保しました。結局のところ、この予選位置があとあと大きな意味を持つことになるのです。

 降水確率60%という天気予報にもかかわらず、10月13日(日)の鈴鹿サーキット周辺は青空から太陽が覗き、快晴となりました。フリー走行、ドライバーズパレード、サポートレースとして行われるシビック・インターカップレースと順にスケジュールが進行し、F1決勝がスタートする午後1時には暑いぐらいの日差しが照りつけて来ました。

 最初のスタートでトラブルが生じたマシンがあったため、しばらく間隔を置いてやり直しとなった2回目のスタートでは、なんと!、ポールポジションのビルヌーブが大失敗。このレースで6位以内に入賞すればシリーズチャンピオンが決定するデーモン・ヒルが易々とトップに立ち、どうしても優勝しなければならないビルヌーブは6位まで順位を下げてしまいました。

 その後、ビルヌーブは徐々に順位を上げ、130Rからシケインへの突っ込みでフェラーリのアーバインを鮮やかに抜き去って4位のポジションを手に入れましたが、2位のシューマッハ、3位のハッキネンを抜くまでには至らず、結局は第1コーナーでリヤタイヤがはずれてしまうというトラブルに見舞われてリタイヤを余儀なくされてしまいました。

 この瞬間、1996年のF1ワールドチャンピオンが確定したヒルは、その後も2位以下を全く寄せ付けない完璧な走りを見せ、ついに記念すべきレースを優勝で飾ることになりました。父グレアム・ヒル、息子デーモン・ヒルと親子2代のワールドチャンピオン獲得はもちろんF1史上初の快挙です。


F1世界選手権第16戦(最終戦) F1日本グランプリ レース結果

順位ドライバーチームマシン
1位デーモン・ヒルロスマンズ・ウィリアムズ・ルノーウィリアムズFW18
2位ミハエル・シューマッハスクーデリア・フェラーリフェラーリF310
3位ミカ・ハッキネンマールボロ・マクラーレン・メルセデスマクラーレンMP4/11



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 決勝日の朝、監督のロン・デニス、ドライバーのミカ・ハッキネン、デビッド・クルサードはじめスタッフ全員で記念撮影をするチーム・マールボロ・マクラーレン・メルセデスの面々。
 最終戦ではどのチームでも見られる光景ですが、マクラーレンチームにとっては過去23年間にわたって継続してきたマールボロとの提携がこのレースをもって終了することになるという記念のレースでもあり、今回の記念撮影には感慨深いものがあることでしょう。
 マールボロとの決別は、今年の成績が低迷していることにフィリップモリス社(マールボロの発売元)が業を煮やしたという側面もあると言われていますが、その真実は、マクラーレンチームのマシンの色を長年親しまれてきた赤白のマールボロカラーから、メルセデス・ベンツカラーであるシルバーに変更するためにロン・デニス監督側から仕掛けたものであるという噂が公然と囁かれています。
 シルバー・アローという異名を持つメルセデスがそのマシンを銀色に変えるということは、ある意味で「必勝」を義務づけられることです。こうしたことを考えると、来年のマクラーレンチームはチャンピオンを本気で狙いに行くつもりだといえるでしょう。



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 ひるがえるフェラーリの応援旗とドイツ国旗、顔にもドイツ国旗のペインティング、手にはチアーホン。はるばるドイツから駆けつけた「ミハエル・シューマッハ・ファンクラブ」の面々とその声援にガッツポーズで応えるシューマッハ。
 昨年のチャンピオンであることを示すカーナンバー1をひっさげてベネトンからフェラーリへ移籍したものの、開幕時点のフェラーリの戦闘力を考えれば今季は相当つらいシーズンになることが予想されていました。それでもなお3戦で優勝を果たし、ウィリアムズの2人に続くシリーズランキング3位にきっちりとつけてくるあたりが「F1サイボーグ」の異名のゆえんと言えるでしょう。特に、フェラーリの母国イタリアGPで88年のベルガー以来8年ぶりの優勝を遂げたことは、フェラーリドライバーとしてこれ以上はない最高の仕事を成し遂げたという事ができます。
 来年は、実弟のラルフ・シューマッハ(日本でフォーミュラ・ニッポンに参戦中)がジョーダン・チームからF1に参戦することが決定しており、「ミハエル対ラルフ」の兄弟対決がいよいよ楽しみになってきました。



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 今回はテレビのピットレポーターとして登場した元F1ドライバーの中嶋悟と鈴木亜久里。
 中嶋悟は、現在チームNAKAJIMAの監督としてフォーミュラ・ニッポンや全日本ツーリングカー選手権等に参戦していますが、レース前に公表された情報によると、今年片山右京が所属しているチーム・ティレルの共同オーナーになるという形で、来年(1997年シーズン)からF1チームの運営に携わっていくことが決定した模様です。ドライバーはフォーミュラ・ニッポンの最速男である高木虎之介の起用が検討されているようで、早ければ来年のシーズン半ばにはチーム中嶋ティレルでF1に挑戦するトラの姿が見られそうです。
 鈴木亜久里は、フナイ・スーパーアグリ・レーシング・カンバニーの監督として若手選手の育成に携わる傍らでブリヂストンのテストドライバーとしてF1用のタイヤ開発を行っています。テスト用のマシンは、亜久里が所属していたリジェ無限ホンダで、鈴鹿サーキットでの最初の走行で自身の予選タイムに迫るほどの優秀な成績をあげていると言われます。ブリヂストンでは、こうしたテスト結果をもとにして本来のスケジュールを1年早めて来年からF1に参戦することを正式に決定しました。リジェ無限ホンダもブリヂストンタイヤのユーザーになるであろうことがほぼ確実で、このチームには童夢F1のテストドライバーである中野信治の加入も噂されているところから、「リジェ+無限ホンダ+ブリヂストンタイヤ+中野信治」という準国産ともいえるパッケージが誕生するかも知れません。
 現役を引退しても(亜久里は11月の国際ツーリングカー選手権に出場するらしいので、正式には引退しているわけではないけれど)なお様々な形でレースにかかわり、日本のレース界の将来のために様々な活動を精力的に続けている2人の元F1パイロット達。21世紀の日本のレースシーンの鍵はこの2人が握っているのかもしれません。



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 ピットから決勝レースのスタート位置へ向かうデーモン・ヒル(左)とジャック・ビルヌーブ(右)。
 世界チャンピオンを2回獲得した偉大なる父グレアム・ヒルの息子であり、テストドライバーとしての経験を含めれば6年間にわたってウィリアムズチームのドライバーを続けてきたが、いざという時には勝てない「弱いドライバー」というレッテルを貼られてしまいがちな寡黙なイギリス紳士、デーモン。
 参戦1年目にしてチームメイトと堂々のチャンピオン争いをくりひろげ、ヒルに王手をかけられた前戦ポルトガルGPでもスタートミスから驚異的な追い上げで優勝を遂げてしまったF1ニュージェネレーションの寵児の父も同じくF1ドライバー。攻撃的な走り、「チャンピオンをとることよりも、自分が気持ちよく走ること、そして誰よりも速く走ることが何よりも大切」という信念が見る者を熱く感動させたジル・ビルヌーブの息子、ジャック。
 それぞれの思いを込め、ピットから出ていく2人の胸中はいかに。そして、観客はこの2人の背後にさらに2人の偉大なドライバーの影をも見ている。



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 F1グリッドガールの手により入場する世界選手権参加国の国旗。ドライバーの国籍に従い、日本、オーストリア、ブラジル、カナダ、フィンランド、フランス、イギリス、ドイツ、アイルランド、イタリア、オランダ、ポルトガルの国旗がそれぞれ紹介される。
 レースはオリンピックと同じく国威発揚の重要な機会として利用されてきた経緯があり、現在もなお国と国との戦いであるという側面を有している。だからこそ、F1の雰囲気を盛り上げるのはそれぞれの国旗。
 ちなみに、観客席で振られる旗は一番人気がフェラーリ、2番目が日の丸と片山右京の応援旗、ついでフランス(アレジ)、イギリス(ヒル)、カナダ(ジャック)、フィンランド(ハッキネン)といったところでしょうか。シューマッハは、人気という面では他のドライバーに一歩譲るような・・・




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 最初のスタート直前、マクラーレンのデビッド・クルサードがスターティンググリッド上で突然のエンジン停止。スタート時の安全確保のためスタート進行は一時中断されました。10分ほどのインターバルを経て再度フォーメーションラップから再開。
 スタートの瞬間、ポールポジションのジャック・ビルヌーブは焦ったのかアクセルを踏みすぎて派手にタイヤを空転させ、大失敗のスタートとなった。これに対して完璧なスタートを切ったのが予選2位のデーモン・ヒル。後ろに鈴鹿大好き男のベルガー(ベネトン)、ハッキネン、シューマッハ、アーバイン(フェラーリ)の順で1〜2コーナーをクリアしていく。
 燃料を軽くしてスタートダッシュから数周でヒルとの間隔を大きく広げておくという作戦に出ていた(らしい)ジャックにとって、このスタートミスの代償はあまりにも大きく、これによってジャックの「F1参戦一年目にして年間チャンピオン獲得」という野望は潰えることになりました。



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 序盤、ヒルを追い回す速さを見せたのはベネトンのベルガー。最近の新しいサーキットは全て安全確保のために中低速型のレイアウトになっているのに対し、鈴鹿サーキットは130Rという恐怖の高速コーナーを持つ世界でも有数の中〜高速型レイアウトのサーキットです。そして、現在のF1で最も高速コースや高速コーナーを大好きなのが、誰あろうゲルハルト・ベルガーなのです。
 同僚のジャン・アレジが練習走行、予選ともに大変苦労し、決勝でもスタート早々にクラッシュと散々な週末を送ったのに対し、ベルガーは金曜日の午後のフリー走行でトップタイムをマーク、予選でも4位の位置を確保し、決勝でも好スタートで2位につけ、前を行くヒルを激しく責め立てました。
 しかし、3周目のシケインでの突っ込みでヒルを差そうとブレーキをギリギリまで遅らせた結果、自らのフロントウィングをヒルのリヤタイヤに接触させてしまい、ウィング交換のためにピットインを余儀なくされました。
 ベネトンチームのメカニックはこの緊急ピットインにもあわてることなくわずか9.8秒でノーズ部分全体の交換作業を終了し、マシンを再度戦列に送り出しましたが、結果的にこのタイムロスが最後までたたってベルガーはトップから27秒遅れの4位でレースを終えることになりました。それでも、前を行くアーバインを相手に40周目のシケインで激しい突っ込みを見せ、横転させんばかりの勢いでフェラーリのマシンをはじき飛ばしてリタイヤに追い込んだアクシデントにもかかわらず無事に完走できたというのはラッキーであったと言わざるを得ないでしょう。



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 今シーズンF1に参戦した唯一の日本人ドライバーである片山右京(ティレル・ヤマハ)。チームメイトのミカ・サロが3戦に入賞しドライバーズポイント5点を獲得したのに対し、右京は予選・決勝を通じてサロの後塵を拝することが多く、肝心なところでマシン・トラブルに見舞われるという不運もあってノーポイントに甘んじています。
 久々の里帰りとなった今回の日本GPでは、曲がらないマシンに苦労しながらもサロを上回る予選14位の結果を残し、迎えた決勝レースでも一旦は先行されたサロを1コーナーで抜き去るなど力の入ったパフォーマンスを見せてくれましたが、アロウズのフェルスタッペンとの接触、ジャック・ビルヌーブの進路を妨害したという理由での10秒間のペナルティ・ストップなど波瀾の展開となりました。そして、38周目にペナルティのためピットインしたところでエンジンからもうもうたる煙を吐き出して残念ながらリタイヤという結果になってしまいました。
 F1通算出場回数78回と中嶋悟を抜いて日本人最多出場となった右京ですが、実は今に至っても来年の体制が決まらず、厳しい状態が続いています。頼りのヤマハエンジンは来期からティレルを離れてデーモン・ヒルとともにアロウズへ移籍することになりましたが、そのセカンドドライバーはペドロ・ディニス(現リジェ無限ホンダ)に決定し、右京とヤマハとの関係も今シーズン限りとなりました。ティレルはホンダと関係の深い中嶋レーシングとのジョイントになるところからヤマハ・トヨタ色の強い右京の起用は難しく、残された選択肢はミナルディか、あるいはトヨタとともにアメリカのインディカーレースへ転向するか、という様々な憶測が流れています。
 来期は中野信治や高木虎之介などジャパニーズ・ヤングパワーがF1に進出してくるという情報も流れてはいますが、なんとしても来シーズンの開幕戦のスターティング・グリッドにはこうした若い選手とともにもはやベテランとなった元気な右京の姿を見たいものです。



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 曰く、「競り合いに弱い」「周回遅れの処理が拙い」「肝心なところで失敗する」など世界チャンピオンを目前にしながら散々な評価をされてきたデーモン・ヒルですが、今日のレースは完璧なレース運びを見せました。2位につけたシューマッハが何度かラップタイムを上げてヒル追撃の姿勢を見せるのですが、そのたびにヒルもスパートして両車のタイム差を常に一定に保ち、最終的にはシューマッハを2位確保の姿勢に変えさせ、余裕のサンデー・ドライブでチェッカーを受けました。
 セナ・プロスト対決の例を引き合いに出して、「両者リタイヤになればヒルのチャンピオンが決定するのだから、スタート直後の1コーナーでジャックを道連れにして1コーナーへ突っ込んでしまえばいいじゃないか」という冗談とも予言ともつかない話をするコメンテーターもいましたが、今回のレースはそんな気配を微塵も感じさせない見事な展開でした。
 熱狂するスタッフと、それにガッツポーズで応えるヒル。さて、今年は下位を低迷したTWRアロウズへ移籍する来年、ヤマハエンジンとブリヂストンタイヤの力を得たヒルが表彰台の上でこのような喜び方を見せることができるのでしょうか。



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 表彰台に立つ上位3人のドライバー(左からシューマッハ、ヒル、ハッキネン)と優勝チームであるウィリアムズのメンバー(青白のユニフォーム)。
 これで今シーズンのF1レースは全日程を終了し、グランプリシーンはひとときの休息にはいる。しかし、その間にもドライバーの移籍をめぐるゴタゴタ、新しいシーズンに向けてのマシンの開発とテストドライブの実施、そして1チーム数十〜百億円とも言われるチームの運営費をめぐるスポンサーとの交渉など、さまざまな動きはとどまることをしらない。むしろ、シーズン中のマシン開発などは微々たる問題であり、来シーズンの勢力図を決定するのはこのオフシーズンで各チームがどれだけのことをしたのかということであらかた決まってしまうといって良い。
 さて、来年はどうなるのか。どうも今年とは相当様相の異なる展開になるのではないか、という期待が起きてくる。誰が速いのか、どこが強いのか、変革の多い時期ほどオフシーズンの楽しみは多いのです。