987 F1 Japanese GP
Fuji Television Japanese Grand Prix 1998
1998 F1 日本グランプリ
今年も鈴鹿サーキットに「エフワン」がやってきました。今回は、F1世界選手権シリーズの第16戦、つまり最終戦として開催されることになりました。
今シーズンのF1は、開幕戦のオーストラリアGPでマクラーレン・メルセデスを駆るミカ・ハッキネンとデビッド・クルサードの2人が3位以下を全車周回遅れにしてしまうという衝撃的なスタートとなりましたが、その陰では、今年からマクラーレンチームが採用したブリヂストンタイヤの驚異的な性能が大きな役割を果たしたと言われています。
昨年からF1への挑戦を開始したブリヂストン夕イヤは、今シーズンを前に、秘密兵器「幅広フロントタイヤ」の投入を決定しました。前輪の幅が広くなることで空気抵抗は若干大きくなるものの、今ーズンから新たに導入されたシャシーの狭小化と溝付きタイヤという規制を補って余りある優れたグリップ力をレース後半まで持続できるブリヂストンタイヤは、今年でF1からの撤退を表明しているグッドイヤーにとって大きな脅威となりました。
この開幕戦の勢いをみたレースファンの多くは、今シーズンはマクラーレン・メルセデスが圧到的な強さを誇り、夏頃には早々にチャンピオンが確定してしまうつまらない展開になるのではないかということを真剣に危惧していたのです。
しかし、そんな状況に敢然と立ち向かったのがF1タ一ミネーター、サイボーグとも呼ばれるミハエル・シューマッハです。昨年の1年間で「シューマッハの言うとおりやれば、間違いなく勝てる」というイメージをチームメンバーに与えて、「内粉が耐えない、マシンが壊れやすい」と言われ続けてきたフェラーリチームを完全に自分の掌握下に置き、見事に「勝てるチーム」へと変身させたその手腕は、かのアラン・プロストをも上回るものではないかと思われます。そのシューマッハが、フェラーリとグッドイヤーの全ての能カを結集させてマクラーレンを追撃した結果、今年のチャンピオン争いはこの最終戦までもつれこむことになったのです。
最終戦を控えてハッキネンとシューマッハのポイント差はわずかに4点。たとえ自分が優勝してもハッキネンが2位に入ればチャンピオンにはなれないことから、シューマッハにとっては非常に厳しい状況ではありますが、そこは超人シューマッハ、きっと何かどえらいことをやってくれるのではないかと日本のファンの期待はいやが上にも高まったのです。
そして迎えた10月30日の土曜日、いよいよ公式予選がスタートしました。「抜きにくい」と評判の鈴鹿サーキットが舞台とあって、各チーム、ドライバーとも、一つでも前のス夕一ト位置を確保しようと懸命の努力を行います。この予選を終始リードしたのはやはりシューマッハ。最終的に記録した1分36秒293という夕イムは昨年のポールポジションタイムにも匹敵するもので、今年のマシンに与えられた各種の制限を考えればまさに驚異的なものでした。しかしながら、ハッキネンもただ手をこまねいていた訳ではありません。僅差でシューマッハの後を追い、最後のタイムアタックでは、コース終盤までシューマッハを上回るタイムを記録してきます。しかし、最後の最後、シケインへの進入でミスを犯し、コースアウトを喫したため、この瞬間にシューマッハのポールポジションが確定したのです。予選3位はマクラーレンのクルサード、4位はフェラーリのアーバインと、2強がそれぞれ第一列、第二列を分け合いました。しかし、昨年は見事なチームプレイを見せたフェラーリのNo.2ドライバーであるアーバインが、ここでトップから約2秒遅れの4位に沈んだことが、結果として今回のレースを占うものであったと言えるかもしれません。
そして、決勝。緊張が極限まで高まったスタートの直前、プロストGPのトゥルーリが突然エンジンをストップさせてしまい、スタートのやり直しとなりました。結果としてこのスタートやり直しが今年のチャンピオンシップを左右する大きなポイントとなったのです。2回目となったスタートの直前、今度はポールの位置にあったシューマッハがエンジンストップ、スタートが再度のやり直しとなるとともに、その原因を作ったシューマッハは最後尾からのスタートとなってしまいました。
3回目のスタートはスムーズに行われ、シューマッハは前走車をごぼう抜きにしてハッキネンを追いかけますが、結局その差を縮めることはかなわず、30周目にはタイヤがバースト(破裂)して残念ながらリタイアという結果になってしまいました。昨年であれば、チームメイトのアーバインが「特攻」でハッキネンの前に出て、シューマッハが追いつくまでハッキネンの速度を抑え続けるという戦略をとったところですが、今年は燃料をギリギリまで軽くしたアーバインですらハッキネンを脅かすところまでも接近できなかったことが結果として敗因となってしまったのです。
30周目にシューマッハがリタイアしてからは、ハッキネンは悠々としたペースでレースを終始リードします。2位のアーバインとの間合いを計りながら、十分に余裕をもって栄光のゴールイン。今回のレースで優勝を手にするとともに、生涯初めての「F1世界チャンピオン」の座を射止めたのです。
また、これでブリヂストンタイヤもF1参戦2年目にして初のチャンピオンタイヤとしての栄冠を手にすることとなりました。来年からはグッドイヤーが撤退してしまうため、なんとしてでも「グッドイヤーを破って世界チャンピオンの座を手にしたタイヤ」という名誉を手にしたかったというブリヂストンの願いもここに見事に成就したのです。
1998 F1世界選手権第16戦 F1日本グランプリ レース結果
| 順位 | ドライバー | チーム | マシン |
| 1位 | ミカ・ハッキネン | ウェスト・マクラーレン・メルセデス | マクラーレンMP4/13 |
| 2位 | エディ・アーバイン | スクーデリア・フェラーリ | フェラーリF300 |
| 3位 | デビッド・クルサード | ウェスト・マクラーレン・メルセデス | マクラーレンMP4/13 |

レースのスタート前に行われたフラッグセレモニー。出場選手それぞれの国籍を示す国旗がスターティンググリッドの位置に運ばれます。
現在のF1マシンはタバコや電気会社など大手企業の広告で埋め尽くされていますが、かつてはイギリスは緑、フランスは青、ドイツは銀、イタリアは赤、日本はアイボリーホワイトに日の丸と、国ごとにナショナル・レーシングカラーが決められており、F1マシンはみなこの国の色に彩られていたものです。つまり、「F1」の世界は、ドライバー個人の争いであるとともに、それぞれのチーム、それぞれのドライバーが母国の威信をかけて戦う「代理戦争」の場でもあったのです。
今年、日の丸のもとに戦う日本人ドライバーは2人。2年目の中野信治と1年目の高木虎之介の2人です。いずれも体制的に恵まれていないため上位入賞を望むことは難しいのですが、なんとか観客にアピールできる走りを見せてほしいものです。
レース前のドライバーズパレードで観客に小旗を振る高木虎之介(ティレル)。かつて中嶋悟が所属していたレース界の名門として、また、オーナーであったケン・ティレルの人柄に魅かれて、日本でも非常に人気が高かったティレルチームですが、残念ながら今期限りで「ティレル」の名称は消滅し、代わってジャック・ビルニューブが実質的なオーナーとなる「BAR(ブリティッシュ・アメリカン・レーシング)」に衣替えすることになりました。
このチーム変更に伴うとばっちりをもろに受けたのが今期の虎之介でした。シーズン途中からはチーム体制の大半が来期のためのマシン開発に費やされることとなり、今年のレースのためのテストもほとんどできない状態で、シーズン終盤にはティレルと同様に非力なフォードエンジンを搭載するミナルディのマシンにも先を越されることもしばしばという状況でした。今回も、結局30周目にミナルディのトゥエロにぶつけられ、虎之介の最初の鈴鹿はリタイヤという結果に終わってしまいました。
それでも、マシンのハンディを考えれば、デビューシーズンの虎之介はそれなりのパフォーマンスを示すことができたと言えるでしょう。なんといっても、開幕戦のオーストラリアGPで予選13位を獲得したことは、多くの関係者を驚かすに十分でした。その後も、際だって非力なマシンを駆っているにもかかわらず、予選では中団のポジションを獲得することも珍しくなく、チャンピオンシップのポイントを稼ぐことはできなかったものの、これまでの日本人ドライバーとはひと味違った「速いドライバー」という評価を得ることができました。
しかしながら、単に「速い」だけでは成功できないのがF1の世界というもので、虎之介の来シーズンはまだ何も決まっていないようです。個人的には、一部マスコミに「噂」として流れたように、トヨタがF1進出への足がかりとしてアローズチームを買収し、そのプロモーションの一環として虎之介をアローズに送り込むという話が実現されれば大変うれしいのですが・・・。なんといっても、トラはもともとトヨタ系のチームであるチーム・トムスの契約ドライバーだったのですから。それに、トラが本当にF1の世界で成功しようと思ったら、ちょっと中嶋悟の庇護の下から離れた方がいいんじゃないかと思うんですよね。今のところ、トラは少々過保護な環境にいるような気がするのです。

こちらは、昨年の世界チャンピオン、ジャック・ビルニューブ(ウィリアムズ)。昨年は最終戦までシューマッハと激しいチャンピオン争いを繰り広げた末に王座についたジャックですが、今年は一回も優勝を果たせなかったばかりか、優勝争いにさえほとんど絡めない状況で、見事に存在感のない一年を過ごしてしまいました。
来シーズンは自らが興したBARチームに移籍が決定していますが、果たして来年は優勝争いにからむレースができるのでしょうか。

こちらは一昨年のチャンピオン、デーモン・ヒル(ジョーダン・無限ホンダ)。マクラーレン、フェラーリ、ウィリアムズ、ベネトンに次ぐ五番手チームというイメージが強いのですが、終わってみれば、マクラーレン、フェラーリの2強以外で優勝を果たしたのは結局ジョーダンのヒルだけでした。
この陰には、無限ホンダのエンジンパワーの急激な上昇が大きな役割を果たしたと言われておりますが、いよいよ熟成が進む来シーズンには、更なる活躍が期待されるところです。

ミナルディのマシンに乗る中野信治。昨年の片山右京の後を引き受ける形でプロストGPから移籍した中野ですが、「金がない、働かない、戦略がない」とないないづくしのミナルディチームには、当初、中野も相当ショックを受けたようです。
しかし、時にはメカニックを叱責し、時には遅くまでミーティングを繰り返すことによって、チーム内の志気は徐々に高まり、シーズン後半にはティレルのマシンを総合力で上回る結果を残すことも多くなりました。今回のレースも粘りの走りで高木虎之介の前を走っていた中野ですが、残念ながらエンジン系のトラブルでリタイヤ。日本人最高となるシーズン11完走を記録することは叶いませんでした。
「ミナルディのシューマッハ」と呼んでも良いほどの大活躍(チームの実力を考えれば「大活躍」です)を見せた中野ですが、来期のチームとの契約はまだ交わされていません。しかし、ここへ来てどうやら来期もミナルディに残留することが決定的になったようです。来期は今年に比べれば相当強力なエンジンを獲得できるようなので、今年の鬱憤を晴らすような大暴れをしてもらいたいものです。

最初のスタートでトゥルーリがエンストしたことで、やり直しになった2回目のスタート。各車がスターティング・グリッドにつくためのウォーミング・ラップを始めました。
猛然とタイヤスモークを上げてフロントローのシューマッハ、ハッキネンが加速していきます。このウォーミング・ラップではシューマッハがものすごい勢いでコースを一周し、いち早くグリッドにつきましたが、そこには巨大な落とし穴があったようです。

2度目のスタート・シグナルが点灯する直前に、突如エンジンがストップしてしまったシューマッハ。どうやら、エンジンの温度が上がりすぎたためにアクセルを戻したところ、クラッチを制御する油圧ポンプの圧力が低下し、いきなりクラッチが繋がってしまったためにエンジンが止まってしまったようです。
スタートを遅らせたという理由によって、ルールで最後尾からのスタートを余儀なくされたシューマッハは、下位のチームとは次元の違う猛烈なスタートをみせました。1周目には既に10台をパスし、7周目には7位までジャンプアップしました。ここまでのシューマッハのパフォーマンスが今回のレースで最大の見せ場であったと言えるでしょう。
しかしながら、その後は6位のデーモン・ヒルを抜きあぐね、次第にペースを落とします。結局、ピットインのタイミング等をうまく利用して3位まで上がったものの、虎之介とトゥエロのクラッシュにより散乱した部品を踏んだことが原因でタイヤをパンクさせ、リタイアという結果に終わってしまいました。
この瞬間、ハッキネンの世界チャンピオンが決定したのです。

シューマッハがリタイヤしたことによって、レース中にチャンピオンを決定したハッキネン。有終の美を飾るべく、淡々と優勝を目指して走り続けました。ある意味では、トラブルを最小限に抑えることがチャンピオンチームの資格であったと言えるでしょう。チームクルー全員がピットウォール上で出迎える中、派手なタイヤスモークを上げながらゴールインしたハッキネン、ウィニングランで観客の声援に応えながら、ヘルメットの間からしきりに涙を拭っていました。
それにしても、今回の鈴鹿ではハッキネンの出身国であるフィンランドの旗が至る所でうち振られていました。これだけのフィンランド国旗、みんな一体どこで仕入れてきたんでしょうね。普通、フィンランドの国旗なんてそうそう売っていないですよね(^^;。

ハッキネン、アーバイン、クルサードと並んだ表彰台。シューマッハばかりが注目されたレースでしたが、実はアーバインの2位というのはもっと評価されてもいいはずです。
最初から特攻覚悟のハーフタンク状態でスタートし、その後も少量ずつの給油で他のチームよりも一回多い3回のピットストップを行いながら、終わってみればマクラーレンの2台に割って入った2位表彰台です。この結果を見ればなおさら、「シューマッハが予選どおりポールポジションからスタートしていれば確実に表彰台の中央に届いていたのに」という気持ちが高まってしまいます。とはいえ、「It's the race それがレースというものだ」ということなんですけどね。
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今年の鈴鹿はF1全16戦の最終戦として行われました。そして、最終戦の風物詩と言えば、出場全ドライバーによる記念撮影です。
それぞれのドライバーの席順は特に決められていないと思うのですが、最前列にトップ4のチームが陣取り、中列の中央にはザウバー、後列中央にはベネトン、そして左右にそれ以外のチーム、と見事に順番どおり並んでいます。
で、前列で一番態度のデカいのがシューマッハ、次いでビルニューブ、クルサード、ヒルの順に股の開き幅が小さくなり、「世界一のナンバーツー」アーバインがきちんと両足を揃えて座っているところなど、個人の性格や人間関係が実によく伺われて、これだけでかなり笑っちゃっいました。

ピット前からTVのレポートを行う、歌手・俳優のマッチこと近藤真彦、レーシングドライバーの土屋圭市、女優の「伝説の少女」こと観月ありさの3人。
実は、マッチは1990年の「ユーロ・マカオ・富士・インターF3リーグ」というレースでシューマッハやハッキネンと争った経験を持っているのです。実質的な「F3世界一決定戦」と言われたこのレースには、3人のほか、アーバインやミカ・サロなど、現在のF1界を背負って立つドライバーが多数参加しており、その激しいバトルの模様は今やレースファンの間では伝説的な存在となっています。このレースに参加したマッチは、激戦の予選レースを勝ち抜き、見事に決勝に進出したのです。いやいや、マッチも立派な実績を持ったプロフェッショナルなドライバーなんですよ。

昨年も鈴鹿を訪れていた羽田元首相。今回は鳩山由起夫氏と共にコース上のドライバーを激励していました。ほかのドライバーとは写真撮影まではしていなかったと思うのですが、ジャン・アレジ(ザウバー・ベトロナス)とはにこにこと記念撮影をしていました。
新聞報道によれば、鳩山氏は「まるで外国にいるみたいだ。こんなに大きなイベントは、国も応援しなければいけない。」という発言をしたということですが、本気でしょうかね。もし、本当に本気なら、以前話題になったように、お台場を会場とした「TOKYO GP」の実現に尽力してもらいたいものですが。
今年のプロスポーツ界のヒーローと言えば、なんといっても横浜ベイスターズの「大魔神」佐々木主浩投手でしょう。モータースポーツファンだということで、今回はTVレポーターも兼ねて鈴鹿を訪れていました。それにしても、この顔、やっぱり正面から見たら、恐いですね(^^;・・・・・

おそらくフィンランドからはるばるハッキネンの応援にかけつけたと思われる、フィンランドのフーリガン。表彰式を前に、少しでもハッキネンに近づこうとコースサイドのフェンスを乗り越えてしまいました。
そりゃ、確かに虎之介や中野信治など日本人ドライバーが世界チャンピオンに王手をかければ、どんな僻地で行われたとしても日本人ファンは大挙して押し寄せるでしょうから、人のことは言えないんですけどね。