■■引越ししました■■ 2006年03月06日

[News Pickup]
劇団ノスタルジア公演 KAGUYA

 誤解を恐れずにまず明らかにすると、ボクはいわゆる「アート」といわれるものを信じない。それは、ボクが体感して、「アート」だと思って初めて「アート」だ。


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 巷には「アート」とか「アーティスト」とかが溢れている。しかしその殆どが、ボクにとって、訳の分からない物であり、共感できないものだったりする。場合によっては、そのアートを見せる空間自体が「ね、アートでしょ?」とボクを試してくるように感じてしまう事もあったりいて、そんな時はニッコリ笑ってその創作者に失礼の無いようとっとと立ち去る。ボクは、分からんのに分かった振りするのが非常に苦手なのだ。そして、そういう振りする奴らが大嫌いだ。

 だからといって、ボクはアートの分からない奴だ、とは、自分では思っていない。自分がアートだと思えるものとの出会いを求めて展示会などに足を運ぶのは嫌いじゃないし、大抵はすごいものに出会える。しかし全てのものの前で足を止めて眺めたり頷いたりはしない。そして、いわゆる「アーティスト」が創作したものでなくとも、「アート」であると思えることもある。

 ボクの意識の中には、「アマチュア演劇」という、ちょっとアングラな、アートのカテゴリーがある。役者を職業としていない趣味人達が集結し、趣味で選んだシナリオを、好き勝手に演じてみせる。だからその創作物は比較的に粗野で、投げ捨て式。そして、彼らが言いたい事は、大概、人としての生き方なんかで、そもそもそんな自己完結しているべき抽象的なことを、さらに抽象的な手法で表現しようとする。で、それをきちんとキャッチングするかどうかは観客次第で、役者たちはそれに無頓着だ。要するにボクは「アマチュア演劇」が好きじゃない。理解できないことも多いし。理解しようとするんだけれども、結構裏切られるんだよね。

 おっと、ここで「アート」とか「アマチュア演劇」について論議するつもりは無い。ただ、昨夜、劇団ノスタルジアの公演を目の当たりにして、とにかくボクは、「アートだなあ」と思った。どこが、といわれても困る。「おおっ」と思ったし、何をしたいのかがよく理解できた。隙の無い、計算されたエンタテインメント。

 彼らの公演は、何しろ、理解しやすい。アマチュア演劇にありがちな、心象表現などにおける抽象的な表現も殆ど見られない。観客に理解してもらいたいという心意気が感じられる運び。そして、仕掛けも、こうやったら面白いんじゃないか、という彼ら自身の好奇心にあいまって、こうやったら観客を喜ばせることができるんじゃないか、というサービス精神も旺盛なのである。観客を決して置き去りにしない、それがアマチュア劇団ノスタルジアなのだ。

 今回、5日の夜の公演をひとりで見に行った。会場に入ってまず驚いたのが、その舞台設営。アートキューブ自体が非常に狭く、殺陣などのアクションをどう観せるのだろうと思っていたのだが、正方形の対角に三角の舞台を作り、それを花道のように細く繋ぐ。その対角線の両脇に観客。素晴らしいアイデアだ。そして、観客は首を左右に振りつつ観劇したわけだが、その、本来なら観劇の障害になりそうな事まで、彼らはわざと大きく左右に振って見せることによって、臨場感の演出に使ったのだ。そこに凄まじい参加感が醸し出され、観客は、激しく動く役者を眼で追いつつ、時に見失ったりしながら、その物語がいかにも眼前で起こっているかのような錯覚に陥ったはずだ。スタッフはライブの楽しさを心得ている。僕も思いっきり術中に填らせてもらった。

 竹取物語をアレンジしたシナリオも楽しかった。時は平安時代、京でおらが春を謳歌する藤原氏、しかし7世紀に滅亡させられたはずの蘇我氏の残党がその転覆を目論んでいた-。15年というタイムスパンがどうとか、歴史考証について語るのはナンセンス。なんとロマンとセンス溢れる内容ではないか。まるでロミオ&ジュリエットを髣髴とさせるようなロマンスも織り込まれていて、飛鳥ファンのボクとしては非常にツボにはまった。ライターである劇団主宰・岡崎の遅筆はファンの間では知られたエピソードだけれども(劇団ホームページを見れば分かる)、彼が紡ぐストーリーに破綻は無く、なるほど、コレだけのアイデアを纏め上げるのにはさぞ時間もかかるだろうと、ボクは思えた。

 演じる役者陣も素晴らしかった。今回はなんせ役者が観客席から近かった。正方形の対角線に設定された舞台を、ある時は左右に散り、またある時には観客の真ん中に集結。長い棒を使った全員参加の殺陣まで飛び出した。運動量も半端じゃなかっただろう。あんな状況で正確な演技をこなすのは、日頃の稽古の賜物以外にない。そして、なにより、「な!楽しいだろ!見てくれ!」という演劇バカ共から発せられる熱い光を、観客は存分に受け取ることができた。息詰まるほどの熱演の合間に時折さりげなく織り込まれるギャグに、ボクは逆にホッとしたほどだ。

 ドキドキ、ワクワクの2時間、なんと短く感じられたことか。そばで観ていた落語家が呟いた「ちょっと、はらたつわ」。
 ああ、もっと見たいな、と思えたが、それは叶わない。見に来てくれるファンのため、思いっきり練り込んで、思いっきり練習して、スタッフが一堂集結して、数年に一度だけアートに花開く。それが、アマチュア劇団ノスタルジアなのである。見逃した奴は、損をした。

劇団ノスタルジア
http://www.geocities.jp/nostalgianet/