厚生省がこの8月に打ち出した

『21世紀の医療保険制度(厚生省案)
−医療保険及び医療提供体制の抜本的改革の方向−


の骨子を見てみましょう。
■患者負担増と医療保険制度再編 現役世代の負担はすべて3割、大病院(300床以上)は外来を5割負担に引き上げる。
■医薬品に上限価格制導入 現行の薬価基準制度は廃止し、医療保険から医療機関に支払う基準額を設定。それを上回る分は医療機関が患者に請求する。
■診療報酬体系の見直し 高血圧、糖尿病などの定型的慢性疾患は外来も定額払い制に移行。医師の技術料を明確化。
■医療供給体制のスリム化 医師・歯科医師数の抑制。過剰ベッド削減と長期入院の是正。
■高齢者の独立保険制度創設 70才からは保険費の1ー2割を定率負担。保険料の徴収基準強化。
■医療費の適正化 重複受診是正、医療機関の指導監査と審査体制の強化。情報化推進。

平成9年9月からの患者負担増はその入り口に過ぎない、という事です。しかも大病院でしか治療を受けられないような難しい病気の人からも、5割という大幅な自己負担を強いようとしています。福祉のための財源という主旨で設立された消費税は道路工事にでも化けたのでしょうか?




日本の医療の特徴として、薬の価格が高い事が指摘されています。上限価格制度が導入されれば、必要な薬剤でもそれを負担できない患者さんが出てくるのは確実です。しかも厚生省は『この制度を導入することで薬剤費が抑制される』としていますが、医薬品メーカーの利益保護のための特例措置も準備されています。この制度が本当に実効的なものであるのかは疑問です。



高血圧や糖尿病などのいわゆる慢性疾患は、『薬さえきちんと服用していればいいんでしょ?』『一生の病気だから、そんなに急には変わらないんでしょ?』という印象が一般的には強いと思います。でも、実はそうでは無いのです。動脈硬化などの深刻な状態がゆっくりと確実に、しかも無症状で進行して行くという事は私のホームページでもご紹介した通りです。
厚生省案に出てくる定額制というのは、現行の出来高払い制とは対極にあるシステムです。出来高払い制というのは、その人にかかった診察、検査、治療などにかかった費用の大半を公費で支払ってくれるというシステムです。早期診断ができるのはこのシステムに負うところが大きいと言えます。逆に検査漬け、薬漬けなどの欠点も指摘されています。
一方定額制というのは、どれだけ検査をしても治療をしても一定の金額しか医療機関には支払われないシステムです。医療機関は儲けすぎというマスコミの指摘もありますが、現実的には倒産したり廃院に追い込まれている医療機関も増えつつあります。定期的な診療報酬の改定という保険点数の値上げも、物価や人件費の上昇に追いつかず、医療機関は苦しい台所になっています。自腹を切ってでも患者さんに奉仕できるほどの収益を上げてはいません。そんな状況でこの定額制が増えれば、検査や治療を省略した過小診療が増える事は間違い無いと思います。10数年前からこの制度を導入したアメリカのHMOは、質の悪い医療が目に余るようになって連邦政府から改善命令が出される状況になっています。何でもアメリカの真似をすればいい、という事では無いという事です。


以下執筆中(^^;ゞ