『診療記録およびその他の法的に保存義務のある診療に関する諸記録の電子保存推進についての要望』

                           日本医療情報学会

日本医療情報学会は法的に保存義務のある診療に関わる諸記録および帳簿は以下の要件を満たすことが、電子的にのみ保存することで保存義務を履行したと見なすための条件と考えます。これらの要件を勘案の上、電子保存を推進していただくように要望いたします。

1.記録された情報が正規の手続きで作成されたものであることが証明されること。

2.記録された情報が作成された時点と同じ意味および形式で定められた期間保存されること。

3.記録された情報を正当に利用する要求があった場合、速やかにその要求に対応できること。

4.一連の記録の中で電子保存された記録とそうでない記録が存在する場合、両者の関係が明瞭に把握できること。

診療記録およびその他の法的に保存義務のある診療に関する諸記録の電子保存推進についての要望 一解説と補足一

解説

1.記録された情報が正規の手続きで作成されたものであることが証明されること。

 これは情報の真正性であり、具体的には誰が、いつ、どこで、どのように作成した情報であるかを確認できることである。これを実現するにあたって記録が記録内容、記録者情報、記録環境情報、の3つの要素から構成される必要がある。記録内容とは、文書において記載されていた記録または保存義務のある内容と意味的に同一の内容を持っ情報のことをさし、記録者情報とは、記録を作成した者を特定できる情報と、記録を作成した時点での記録を作成した者の所属医療機関を特定できる情報をさす。また、記録を作成した者と記録を入力した者とが異なる場合には、記録を入力した者についても同様の情報と記録するものとする。記録環境情報とは、記録を作成した目時、記録を保管する医療機関、システム種別を特定できる情報をさす。

 また電子保存そのものの妥当性、信頼性を保証するために、記録の電子保存および閲覧に関するプログラムおよび電子計算機等の機器のシステムの概要、開発に際して作成した書類、操作説明書、および保存に関する事務手続きを明らかにした書類を備え付けることが必要である。これらの書類が電子的に作成し保存されている場合も、画面や書面に整然とした形式で明瞭かつ速やかに出力できなければならない。

2.記録された情報が作成された時点と同じ意味および形式で定められた期間保存されること。

 記録の完全性を確保するためには、保存後の記録の変更を一切禁止し、記録が不用意に分断されないことを保証し、また環境や技術の変化の影響がなく、保存された時点とまったく同一の情報として再現されることが満たされなければならない。記録の訂正などの改変の必要が生じた場合は新たな電子的記録として作成し、変更前の電子的記録との新旧関係が管理される必要がある。諸般の事情で記録された媒体が使用不可能になることが予測される場合は記録の意味や形式といった内容を維持して媒体を変換しなければならない。

3.記録された情報を正当に利用する要求があった場合、速やかにその要求に対応できること。

 可用性は診療に関する記録全般で重要であり、電子的保存記録は、以下の状況のいずれにおいても速やかに、真正性を保証する情報を含めて画面上または書面に明瞭な形式で出力できなければならない。

1)診療上必要とするとき
2)患者から要求があったとき
3)行政上必要とするとき
4)その他、特別な理由により必要とするとき

 なお、電子保存によって記録の可用性は飛躍的に向上することが予想される。したがってプライバシーの保護に対するより一層の注意が払われなければならない。

4.一連の記録の中で電子保存された記録とそうでない記録が存在する場合、両者の関係が明瞭に把握できること。

 電子保存への移行期や、何らかの理由で電子保存が著しく困難な情報がある場合でも記録の一貫性は確保されなければならない。時間的または意味的に継続性のある記録に関して、電子的に保存したものと、電子的に保存しないものの両方がある場合には、その関連がシステムにおいて、または運用において明確に把握できるようにする必要がある。

補足

1.第1項を実現するためには記録作成者もしくは記録入力者を特定できなければならない。したがって電子保存に関わるシステムでは利用者個人を認証できる機構をそなえる必要がある。

2.これらの要件の実現にあたっては運用面での対応が重要であり、医療情報学会の作成した「診療情報システム運用ガイドライン」を参照されたい。

3.技術的な要素も重要であるが、情報の安全性に関する技術には現時点で利用可能なものが数多くあり、また日々進歩をとげている。導入する技術が一般的なものであり、仕様書や設計書を装備することを条件にすれば、特定の技術を指定する必要はない。むしろ特定の技術を指定することによる将来の利便性の損失を避けなければならい。

戻る